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ブランド施策の主力へ──“人気に乗っかるだけじゃない”IPタイアップ”でブランド好意を生み出すホットペッパービューティー

『こどものおもちゃ』や『凪のお暇』――。
ヘアサロン ・リラク&ビューティーサロン検索・予約サービス「ホットペッパービューティー」は、こうした人気漫画IPとタッグを組んだタイアップで大きな話題を呼んできました。
毎回のようにファンから喜びの声が届く数々の企画は、どのようにして生まれたのか。
株式会社リクルート ビューティーブランドマーケグループ チームリーダーの康 史織氏に、IPタイアップの企画実施の背景やその効果、知られざる苦労や工夫など、同社のIP活用戦略の全貌を伺いました。
あらゆる媒体でホットペッパービューティーの価値を届ける
仙水(株式会社Minto プランニンググループ マネージャー):
早速ですが、康さんの現在のミッションと役割について教えてください。
康:
私は現在、ホットペッパービューティーのブランドプロモーションのプロジェクトマネジメント業務と、そのチームリーダーを担っています。
ホットペッパービューティーは、美容サロンの検索・予約サービスです。実際に登録いただいている店舗は、美容室だけでなくネイルやリラクゼーションサロンなども含まれます。
このホットペッパービューティーを通じて、美容サロンを予約してくれるお客様を増やすことが私たちのミッションです。
仙水:
康さんのチームは、具体的にどのような顧客層をターゲットとしているのですか?
康:
チームとしては10代の若年層から40代まで幅広くターゲットとしています。その中で私はF1層(20〜34歳の女性)とF2層(35〜49歳の女性)を中心に担当しています。
チーム内でターゲットや施策単位で担当が分かれていて、例えばメンズ向けプロモーションでは、WebCM担当とタイアップ担当がそれぞれいます。
仙水:
予約数を増やすというミッション達成のために、具体的にはどのような施策を展開しているのですか?
康:
TVCMやWebCM、インフルエンサー施策、OOH(屋外広告)、音声広告、そして漫画、アニメ、アーティストとのタイアップなど多岐にわたります。多種多様な手段を組み合わせて、ターゲット層へのリーチとエンゲージメントの最大化を図っています。
TVCMだけでは届かない層へ。IPタイアップ挑戦の背景と手応え
仙水:
さまざまな施策を展開されている中で、IPタイアップにはいつ頃から力を入れ始めたのですか?また、そのきっかけは何だったのでしょうか。
康:
本格的に力を入れ始めたのは、2023年から2024年にかけてです。Mintoさんとの最初の取り組みは、2021年に実施した『凪のお暇*』とのタイアップだったと記憶しています。そこから2年ほどかけて、IPタイアップの効果を検証しました。
*『凪のお暇』
コナリミサト先生による漫画作品で、人生をリセットして自由な生活を送る主人公・凪の物語。周りの空気や人の目を気にせず、自分のペースで生きていくことを選び、様々な出会いを経験しながら成長していく姿を描く。
この間、「本当に効果があるのか」「F1・F2層だけでなく、若年層やメンズ層にも響くのか」など、さまざまなセグメントで検証を重ねました。その結果、ターゲットやIPの特性に合わせてクリエイティブや訴求方法を最適化することで、タイアップは一定の成果が見込めるという結論に至りました。
その後、2023年頃から一気に多様なジャンルのIPとのタイアップに挑戦し始めました。漫画だけでなくアニメとのタイアップ、さらには参加型のキャンペーンを取り入れるなど、施策の幅を広げていきました。
今では、IPタイアップはブランド施策の主力の一つだと捉えています。
仙水:
IPタイアップの施策を通じて、どのような手応えを感じていますか?
康:
定量面・定性面の両方で効果を実感しています。例えば定量的な観点では、社内で重視しているROI(投資収益率)の目標を達成できています。そして定性的な面では、IPの力を借りることで「ホットペッパービューティーを使いたい」というお客様の好意を獲得できています。
同じくMintoさんと実施した『こどものおもちゃ*』とのタイアップでは、ファンの方々からたくさんのコメントをいただきました。
「作品の続きを読ませてくれてありがとう」
「また会えて嬉しい」
こうした反応があるのは、IPタイアップならではの特徴だと思います。
*こどものおもちゃ
小花美穂先生による漫画作品で、1994年から1998年にかけて『りぼん』にて連載。人気子役タレントの倉田紗南と、そのクラスメイトで大問題児の羽山秋人を主人公とした学園漫画。
仙水:
タイアップを通じて、ファンの方々との交流が生まれるのはとても素晴らしい成果だと思います。
康:
社内では施策を「訴求重視」と「ブランド好意重視」にプロットして整理しています。TVCMなどの施策は、ホットペッパービューティーの機能を伝える訴求重視の施策でした。
しかしサービス利用者が増えるにつれて、従来の機能訴求によるコミュニケーションだけでは、アプローチしきれない層が出てきているという課題感がありました。
そうした中で、IPタイアップは「好きなもの」を通じてブランドへの好意を自然に醸成しやすい。つまりブランド好意形成に大きく貢献できるという点に、大きな可能性を感じたのです。
『こどものおもちゃ』とのタイアップを決断させた「熱意」と「Wow」
仙水:
IPタイアップの中でも、特に漫画IPを活用するメリットはどこにあると思いますか?
康:
大きく二つあると考えています。一つ目は、IPが元々持っている力、つまりファンや認知度といった効能を活用できること。そして二つ目は、漫画のストーリーに自然に絡めてサービスを訴求できることです。
「広告離れ」が進んでいると言われる中で、この二つは非常に重要だと思います。
一般的に、企業CMに興味を持って見てくれる人は少ないと思います。しかし、自分の好きな漫画のキャラクターに関するコンテンツであれば、それだけで興味を持ってくれる人が増えます。つまり、まず見てくれる人のパイが広がります。
そして、IPとタイアップしているホットペッパービューティーに対しても、好意的な感情を抱いてもらいやすくなるというメリットがあります。
また、ホットペッパービューティーはタイアップ先のIPの選定において、「髪型の変化を自然に描きやすい漫画か」という点を重視しています。
漫画のイメージや物語性を損なわないように、キャラクターが髪を切ったり、イメチェンしたりするストーリーを届ける。そうすることで、作品のファンの方々が「自分も髪型を変えてみようかな」「ホットペッパービューティーで予約してみようかな」と自然に思える流れを作ることができます。
キャラクターが元々持っている「髪を切る理由」や「変わりたい気持ち」と自然に結びつくことで、より多くの共感を呼び、予約行動につなげられるのです。
仙水:
キャラクターの特性と訴求内容の親和性が重要ということですね。
康:
先ほど紹介した『こどものおもちゃ』のタイアップは、まさにこれまでの漫画タイアップの経験の集大成のような施策でした。
仙水:
本施策では、他にもいくつかタイアップ候補の作品をピックアップさせていただきました。最終的に『こどものおもちゃ』に決定した背景には、どのような意思決定があったのですか?
康:
大前提として、ターゲットボリュームが一定あり、リーチできる層が広いというデータがありました。それ以外に、いくつかの定性的な要因でこの作品とぜひタイアップしたいという結論に至りました。
仙水:
定性的な要因とは?
康:
例えば、『こどものおもちゃ』と組むことで、ファンに良い意味での「Wow(驚き)」をお届けできると考えました。タイアップではメディアミックスされた作品を選ぶ傾向がありましたが、その中で懐かしさを感じられる作品を選ぶことで、F1・F2層に新鮮な驚きを提供できると思ったのです。
また、当社はもちろんMintoさんの中でも、『こどものおもちゃ』に対して非常に熱量の高い方々がいたという点も要因の一つでした。データだけでは測れない、この熱意とWowへの期待感が、当社の伝えたいメッセージと最も合致している。そう考え、本作とのタイアップをさせていただくこととなりました。
IPの世界観と訴求を組み合わせつつ、ファンに新しい楽しみを届ける
仙水:
康さんがIPアイアップを進める上で、意識していることや注意していることは何ですか?
康:
ホットペッパービューティーが伝えたいメッセージと、IPが持つ世界観をうまくマッチさせることです。そのマッチングが、ファンの方々、出版社、作者の三方すべてにとって喜ばしい状態を作り上げ、さらにそれが世の中に自然と広まっていく。これが、IPタイアップの理想だと思います。
仙水:
とはいえ、この理想形を実現するのは非常に大変だと思います。特に、先ほど話題になった作品選定などにおいても、熱量のような数値化できない要素をどう見極めるのかといった課題を抱えているように感じます。
康:
そうですね。いわゆる「懐かしい系作品」の場合は特に、その作品を愛しているファンの数や期待感をデータとして定量化することは困難です。そのため、タイアップの成果を的確に捉えるのは非常に難しいと思います。
実際、『こどものおもちゃ』とのコラボまでに、累計7回のタイアップ(2025年6月時点)を実施してきましたが、ここまで積み重ねてようやくXでトレンド入りするような反響を得られるようになりました。
仙水:
クリエイティブ制作における制約や苦労についてはいかがですか?ホットペッパービューティーの場合、「キャラクターが髪型を変える」というストーリーが絡むため、IPによってはハードルが高い場合がありますよね。
康:
そうですね。髪型を変えることは、ホットペッパービューティー自体の訴求につながる上で非常に重要です。しかしそれだけではなく、ファンの方々に好きなキャラクターの新しい姿をお見せすることで、喜んでいただきたいという想いもあります。
キャラクターの髪型の変化を分かりやすく伝えられるため、タイアップでは書き下ろしのイラストをお願いするようにしています。これは私たちにとってタイアップで特に大切にしていることであり、大きなハードルにもなっています。
漫画の場合、髪型が少し変わっただけでは変化に気づきにくいという側面と、髪型を変えすぎてもキャラクターのイメージから逸脱してしまうというバランスの難しさがあります。そのため、先生には実際に書き下ろしの漫画を描いていただく過程で、髪をツヤツヤにしてほしい、キャラクターのイメージを変えない範囲で変化が分かるようにしてほしいなど、細かな調整をお願いすることも多いです。
制作の過程で、「今時の髪型がどういうものか分からない」という相談をいただくこともありました。流行の髪型を押さえる必要はあるけれど、最先端を行き過ぎてもキャラクターのイメージと乖離して違和感が出てしまう。『こどものおもちゃ』では、このバランスが非常に重要でした。
このタイアップでは、当社からヘアカタログなどを提供しています。その上で、キャラクターのイメージを損なわずかつ違和感が無いラインを探りながら、今っぽさを表現できるようにご協力いただいています。
仙水:
作者の方々は、キャラクターデザインやイメージを守ることを第一に考えていると思います。だからこそ、このタイアップでは小花先生が柔軟にイラスト制作に携わってくださっていて、その姿勢が素晴らしいと感じています。
康:
キャラクターのイメージを変えた結果、「これは〇〇じゃない」とファンに言われてしまうことを恐れる気持ちは当然あります。
そこを乗り越えて、ファンに喜んでもらえる実績をMintoさんと一緒に作ってこれたのは、非常に大きいです。
「ファンが喜んでくれるから大丈夫」という信頼関係を築けてきたからこそ、『こどものおもちゃ』をはじめ、IPタイアップ施策を実現・継続できているのだと思います。
本企画については、小花先生が自身のブログでも言及してくださっています。
仙水:
先生がその企画について喜んでいる様子を見て、ファンの方々も一層喜んでくれたのでしょう。
康:
漫画IPを「どう選ぶか」ももちろん重要ですが、制作したコンテンツをどのように届けて盛り上げるのかという、クリエイティブ以外の手段の大切さを実感する出来事でした。
今後の企画でも、どんどん新しいチャレンジを取り入れていきたいです。
IPとブランドの「よりよい融合」で好意度を向上
仙水:
リクルートさんとは、これまでさまざまなプロジェクトでお取り組みさせていただきました。Mintoと取り組むIPタイアップについて、康さんはどう感じているのか、率直な意見を聞かせてください。
康:
MintoさんはIPのことを心から愛している方が非常に多いと感じています。
IPに対する深い理解をもとに、その作品の先生が何を大切にされているのか、何を描きたいと思っているのかといった背景まで汲み取った上でご提案いただける点も、非常に素晴らしいです。
私たちは、どうしても「ファンが喜ぶこと」と「自分たちが伝えたいこと」を作品とどうつなげるかを考えがちです。
Mintoさんはそこに先生や版元側の意向を加え、より良い状態を目指そうとする姿勢を感じます。
また、施策期間中の広告配信においても、細やかに運用を調整してくれる専門家がいてノウハウもあるため、安心してプロジェクトを進められています。
仙水:
私たちは漫画コンテンツを活用させていただく会社として、出版社と広告主様だけでなく、クリエイターやファンの方々に喜んでいただける企画を常に目指しています。そこを評価してくださるのはとても嬉しいです。
予約意向から行動へ──IPタイアップで“次の一歩”へ
仙水:
今後、ホットペッパービューティーのIPタイアップで取り組んでいきたいことはありますか?
康:
ホットペッパービューティーとしては、IPタイアップを通じて予約意向を高めるだけでなく、実際に予約行動につなげるまでの動線を強化していきたいです。
それと同様に、ブランドへの好意度をさらに高めていくことも重要なテーマだと考えています。単にIPの人気に便乗するだけでも、自分たちの言いたいことだけを伝えるだけでも望む効果は得られません。
IPとブランドが上手く融合してこそ、施策への好意がブランドへの好意へと転換していくのだと思います。この「ブランド好意」を高めるための施策は、今後も積極的に検討していきたいです。
IPタイアップにおいて、リクルートはさまざまな施策に取り組んできましたが、まだまだIP活用には可能性が秘められていると思います。漫画IPとの取り組みを進めるだけでなく、漫画以外のIPとの取り組みも、積極的に検討していきたいです。
今後もMintoさんと一緒に、ファンの皆さんに喜んでいただける施策を生み出していきたいと思います。
仙水:
私たちとしても、今後も引き続きさまざまなIPタイアップの企画を提案できればと思っています。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。