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新幹線利用者を増やす秘訣は「作品に寄り添うこと」年間100件のIPとコラボするJR東海「推し旅」

2021年10月よりスタートした、東海旅客鉄道株式会社(以下、JR東海)が展開する観光キャンペーン「推し旅」。アイドル、アーティスト、アニメ、ゲームなど思い思いの“推し”のために旅をする人々の背中を押す取り組みとして、これまでに多くのコラボ企画を開催してきました。
2024年9月には、Mintoと連携してアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』コラボ企画を実施し、大きな話題となりました。
JR 東海「推し旅」とアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』コラボ企画をプロデュース
JR東海が「推し旅」を通じて、数々のIPとコラボするのはなぜなのか。
その背景にある想いとこれまでの取り組みを、営業本部 需要創出グループの田村真吾さんに伺いました。
「推し旅」で東海道新幹線の新規需要を生み出す
伊藤(株式会社Minto Executive Planner):
田村さんが所属する需要創出グループは、どのような役割を担っているのですか?
田村:
営業本部 需要創出グループは、新幹線の新規需要を生むというミッションを与えられています。そのなかでさまざまな施策を実施しており、そのひとつが私が担当する「推し旅」です。
「推し旅」では、アニメ、ゲーム、スポーツ、音楽などさまざまなエンタメコンテンツとコラボして、東海道新幹線を利用した旅に出かけるきっかけづくりに取り組んでいます。
伊藤:
そもそも、なぜJR東海は「推し旅」に力を入れ始めたのでしょうか?
田村:
コロナ禍によりビジネス需要が大きく落ち込んでしまったことをきっかけに、新たな需要を生み出さなければならなくなったんです。
そこで注目したのが、エンタメコンテンツとのコラボを通じて、ファンの方々の旅行需要を喚起するというものでした。
2022年頃から各種コンテンツとのコラボを増やしていき、昨年度(2024年度)には約100件のコンテンツと提携しての「推し旅」を企画しました。
伊藤:
すごい件数ですね!「推し旅」を担当するチームは何名いるのですか?
田村:
上司も含めて14名ほどです。
伊藤:
平均すると、1名で年間10件前後の企画は担当していると。
田村:
そうですね。毎日多くのコンテンツと関わるので、頭が追いつかなくなるときもあります(笑)。
伊藤:
東海道新幹線は東京駅〜新大阪駅の区間を結ぶわけですが、注力しているエリアや区間などはどのように決定されているのですか?
田村:
名古屋や静岡を中心に企画を展開することが多いです。関西方面の企画は少ないのですが、今年開催される大阪万博などを見据えて、今後はより多方面にコラボを展開していきたいと考えています。
伊藤:
私たちが関わらせていただいた『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』は、大阪での開催でしたよね。なぜ関西方面の企画はこれまで多くなかったのでしょう?
田村:
基本的に、「推し旅」は作品に寄り添ったコンテンツであることを重要視しているからです。コラボするエンタメコンテンツの作品性を無視して、なんのゆかりもない地域に誘客しても、旅に出かけるきっかけづくりにはなりにくいと考えています。
先ほど触れた名古屋や静岡は、さまざまなエンタメコンテンツの聖地がありますが、大阪を目的地とする推し旅と相性のいいコンテンツはなかなか発見できずにいました。
しかし、「推し旅」の企画の経験を積んできたことで、聖地ではない場所にどう違和感なくお客様をお連れできるかの手法を増やすことができました。それらをうまく活用することで、これまでは誘客できていなかったエリアも旅の目的地にできると思います。
さまざまなIPの中から『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』を選んだ理由
伊藤:
スタートの段階では、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』以外にも5〜10コンテンツほどのIP企画をご提案しました。その中から『ジョジョの奇妙な冒険』を選んだのはなぜですか?
田村:
私たちの「推し旅」は「企画をきっかけに新幹線で旅に出ていただく」ことが目的なので、新幹線に乗るというハードルを越えてくださるお客様がファン層にいるかが非常に重要です。
例えば『ジョジョの奇妙な冒険』の場合、他のイベントを見ても女性ファンの方々が多い印象がありました。SNSでも『ジョジョの奇妙な冒険』への熱量の高さを感じたことから、首都圏から新幹線に乗って大阪へ移動してくれる人も多いのではと考えました。
他の企画を考えるときにも、グッズ販売会社や広告代理店の提案のなかには、必ずといっていいほど『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのいずれかが候補にあがります。
伊藤:
なるほど。私たちがお見せした『ジョジョの奇妙な冒険』の企画書には、どんな感想を抱きましたか?
田村:
『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』という作品にも、そのファンの方々にも寄り添っている企画書だと感じました。
Mintoさんは作品の特性を吟味しつつ、あらゆる方向性で企画の中身を検討してくれました。最初のご提案だけでなく、その後も版元と何度もやり取りを重ねて内容をブラッシュアップしていただき「これなら違和感がない」と思えたんです。
また、私たちは従来の施策をXの自社アカウントでしか発信できていませんでした。MintoさんはX広告などはじめての試みについても提案してくれたので、貴社のノウハウをお借りしつつ広告宣伝の効果検証もしたかったんです。結果を見ても、Mintoさんとの取り組みはベストな選択だったと思っています。
初日から大盛況だったコラボ企画の成功要因
田村:
想定していた数字以上の成果が出ました。企画段階から抱えていた大阪が目的地であるという点の不安に対して、イベント初日から多くのお客様が新幹線を利用してくださいました。フォトスポットで写真を撮っている様子をSNSで投稿している人も多く、大成功だったと思います。
伊藤:
それを聞いてホッとしました⋯⋯。田村さんは、これだけの成果が出た要因は何だと思いますか?
田村:
東海道新幹線に乗車した皆様へプレゼントしたトートバッグをはじめ、スタンプラリーやフォトコンテストでもらえるグッズの数々が、大きな要因だったのではないでしょうか。特にトートバッグは、私たちとしてはかなり力を入れて制作しました。こうした各種アイテムを、ファンの方々が魅力的に感じてくださったのかなと思います。
フォトスポットも豪華だったので、それもひとつの要因かなと。
あと、キャンペーンと偶然同じタイミングで作者・荒木飛呂彦先生のパブリックアートが大阪駅に展示されたことも大きかったと思います。
伊藤:
完全に偶然ではありますが、結果として非常によいタイミングで企画を実施できたと思っています。
ちなみに今回、はじめてX広告を活用したとのことですが、その成果は感じられましたか?
田村:
アンケートで企画の認知経路を質問した結果からも、確実に『ジョジョの奇妙な冒険』のファンの方々に認知を拡大できたと思っています。
IPを“使わせていただく”立場として大切にしていること
伊藤:
田村さんたちは年間100件以上の「推し旅」企画を展開しているとのことですが、そこで大切にしていることはなんですか?
田村:
IPに寄り添った企画であるか、ファンの方々が新幹線を使って移動したいと思える動機になるかは、重視するポイントです。
そもそも、私たちはIPを“使わせていただく”立場である以上、私たちのミッションも達成しつつファンの方々に楽しんでいただき、IPをより広めていくといったWin-Winの取り組みが大切だと思っています。
そのため、コラボするIPを探すときはしっかりその作品について知る機会を設けています。
通勤中に作品を視聴したり、秋葉原を歩きながらグッズや広告をチェックしたり、イベントに参加したり。コラボする作品に触れていくうち、どんどん作品にのめり込んでいって自分の“推し”になっていく。
これが、「推し旅」担当のメンバーにとって一種のルーティンになっています。私も「推し旅」を担当して1年半ほどになりますが、推しの作品がどんどん増えていって大変な状況です(笑)。
伊藤:
コンテンツを見きれなくなってしまいますね(笑)。
田村:
そうやって作品のファンになっていくと、当然ですが「自分の好きなコンテンツで適当な企画はできない」となるわけです。熱意の高いファンをターゲットとしている以上、私たちはその心情を理解しつつ企画を練る必要があると思っています。
ちなみに、IPコラボではさまざまな都市を“聖地”とするコンテンツとの企画も展開します。その過程で、ファンの方々に新たな旅の楽しみが提供できたらいいなと考えているんです。
「今回の「推し旅」を通じて初めて〇〇に行きました」
「こんな良い場所があるなんて、「推し旅」をするまで知りませんでした」
こうした声を増やすことで、JR東海沿線の発展や地域創生に寄与できたら、とても嬉しいなと思っています。
伊藤:
「推し旅」の結果、地域も盛り上がるという連鎖につながるのは素晴らしいことですね。
高い熱量を持つファンに応えられる企画を提供したい
伊藤:
JR東海の「推し旅」では、アニメやマンガ以外にも音楽、スポーツなどさまざまなIPとコラボしてきたと思います。田村さんから見て、「推し旅」と「相性の良いコンテンツ」は何だと思いますか?
田村:
「推し旅」と相性が良い、特定のジャンルはないと考えています。
何よりも重要なのは「ファンの熱量」なのかなと。この点が、私たちにとって判断が難しい部分であり、日々トライ・アンド・エラーを繰り返しているポイントでもあるんです。
例えば音楽ジャンルでの事例を振り返ると、これから盛り上げていこうというアイドルはファンの熱量が高いと感じています。
伊藤:
確かに、そうしたアイドルには「音楽シーンのトップを目指そうという彼らを応援したい」という、高い熱量を持つファンがたくさんいそうです。
ビジネス利用ではなく、プライベートでコンテンツを楽しむ目的で新幹線に乗るというハードルを乗り越えられる熱量が必要なのですね。
そんなファンがいるIPをどのように探すのですか?
田村:
私たちは様々な市場調査をして、その結果を判断指標にしているのですが、一例として、書店やキャラクターショップに足を運んだとき、そのIPのグッズがあるかどうかをチェックしています。そこで点数の多いIPは、いい意味でコンテンツがコモディティ化しているため、コラボで目新しさを出しにくいと考えています。
まだまだ手探りですが、熱量の高いコアファンがいるIP。それをどう見つけ出すかが、私たちの仕事でもあります。
伊藤:
例えば静岡では毎年、ミニ四駆の大会が開かれていますよね。子どもから大人になってもミニ四駆への高い熱意があり、かつ一定の金額を支出できる大人が集まっているという点で、強いIPといえますね。
田村:
こうした熱意を持つお客様に、高速バスや自家用車ではなく新幹線を利用したいと思える企画を提案できるかが大切だと思っています。
あるアーティストとのコラボでは、新幹線の車内限定で再生できるトークを提供しました。結果、アンケート回答者の約4割が、別の交通機関から新幹線に移動手段を変えたと回答していたんです。
伊藤:
それだけ多くの人々が、新幹線の費用を出してもそのコンテンツに触れる価値があると感じたのですね。『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』とのコラボのように、アーティストとオリジナルの企画を展開したことはあるのですか?
田村:
あります。とあるロックバンドとのコラボ企画で、メンバーの出身地でのライブイベントを企画しました。
ライブはJR東海が完全に協賛するという形を取り、新幹線に乗ってご来場された方へオリジナルグッズをプレゼントしました。
伊藤:
故郷に帰るという文脈で企画を考えたと。非常に面白いアイディアですね。多くの企画に取り組んでいる「推し旅」ですが、今後の目標ややってみたいことはありますか?
田村:
「推し旅」を始めて約4年ほど経過しますが、多くのIPとのコラボを実現してきました。ありがたいことに、実施件数は右肩上がりで増えていき、「推し旅」自体の認知も広がってきました
いわゆる推し活には、ポップアップストアや飲食店コラボなどさまざまな形があります。その中から「推し旅」を選んでいただくためにも、ファンの皆さんの満足につながる、ここでしか体験できない企画を提供したいと思っています。
まずは「推し旅」のHPをチェックするところから推し活を始める。そんなルーティンが皆さんに根付くような世界観を、私たちとしては目指していきたいです。